子どもオンブズ・コラム 令和6年5月号 子どもとともに歩む人 ~絵本『よるにおばけと』から~

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ページ番号1019648  更新日 令和6年5月27日 印刷 

子どもとともに歩む人 ~絵本『よるにおばけと』から~

長瀬オンブズパーソン
長瀬オンブズパーソン イラスト

 オンブズパーソンになって3年目となりました。今日は、私がオンブズパーソンのほかにしている活動について書きたいと思います。私は、ふだん「子どもの権利・きもちプロジェクト」という絵本やアートを通じて、子どもの権利の視点を日本の社会に広めるという活動をしています。子どもの権利という視点とともに、絵本のもつ魅力を伝えることができたら、と考えています。

 なぜ、絵本なのか。

 それは、絵本が「子どもの声を聴く」、すなわち子どもの権利条約の第12条子どもの意見表明・参加の権利を実現する際に非常に有効なツールだと考えるからです。子どもの権利条約では、第12条の意見表明権を「子どもとおとなの間の、相互の尊重にもとづいた情報共有および対話を含み、かつ、自分の意見とおとなの意見がどのように考慮されてプロセスの結果を左右するのかを子どもたちが学びうる、継続的プロセス(一般的意見第12号)」と定義しています。この定義からは、意見表明・参加の権利を実現するために必要な要素が分かります。子どもとともに絵本を読むことは、この定義の「相互の尊重」、「情報共有および対話」を実現することだと思います。ともに時間を分け合い、子どもに分かりやすい情報の共有がなされ、時にその子どもが置かれた状況に重なる物語を提示し、子どもに言葉を与え、おとなとの対話のきっかけをつくるものだと考えています。

 そのように私が考えるのは、カナダ・トロント市のParent Books(現在は閉店)にあった絵本との出会いと今年中学生になった娘の子育ての経験が大きく影響しています。なお、Parent Booksについては、紙幅の関係上ここで詳しく書けないのですが、当時の日本では子どもに伝える必要がないと考えられていたテーマ、あるいは伝えることが難しいトピック、例えば別離、喪失、精神疾患、多様性をテーマにした絵本がありました。子どもには分からないだろうと決めつけず、どのようなテーマであっても子どもに分かるように伝え、寄り添う絵本のありようを目の当たりにして感銘を受けました。Parent Booksを訪れたのは、娘が2歳の時でした。ずっと忙しく働いてきたので、絵本を読むことは、自分のリフレッシュも含め日々の生活において欠かせないものでした。繰り返し絵本を読む日々のなかで、自分の研究とも結びつけて考えるようになったのです。絵本を読むことで、娘の気持ちに気づかされることは何度もありましたし、絵本の物語や主人公の発する言葉から共通言語ができ、コミュニケーションにおいて助けられてきました。『あーんあん』(せなけいこ作・絵、福音館書店、1972年)、『おこる』(中川 ひろたか作・長谷川 義史絵、金の星社、2008年)、『あなただけのちいさないえ』(ベアトリス・S・ド・レーニエ作・アイリーン・ハース絵・ほしかわ なつこ訳、童話館出版、2001年)をはじめ、印象深い、忘れられない絵本はたくさんあります。

 そんななか、最近出会った絵本が『よるにおばけと』(みなはむ著、ミシマ社、2022年)という絵本です。このゴールデンウィーク、「海が見たい」という娘の希望があり、日帰りで行くことができる海を探しました。そして、ずっと自分が行きたかった書店に寄ることができる場所を選びました。きれいな海に癒され、ひとしきり遊んだ後、その書店に行きました。そこで、娘に手渡されたのがこの絵本でした。

 表紙絵は、女の子とおばけが手をつないで立っているものです。主人公の女の子とおばけは、一晩の冒険に出かけるのですが、不安に思う女の子の傍におばけはずっといて、「だいじょうぶ」と声をかけ続けます。「だいじょうぶ ここにいるよ」「だいじょうぶ もうすぐだよ」といった具合に。その言葉が、ただ受容するだけでないことも印象的でした。「子どもの声を聴く」ことは、子どもの言う通りにすることではなく、ともに行きたいと願う方向へといっしょに歩むことであるとも気づかされます。真っ暗な暗闇と、冒険のなかで出会う景色の鮮やかさとのコントラストも美しい水彩画の絵本です。ページをめくる度、心がほっとほぐされます。読み終えて、この絵本を手に取って選んだことが、現在の娘の「声」(思いや表現)なのだなあと思いました。その日は、他にも出会った素敵な本たちとともに、家に帰りました。

 生きることは大変で、オンブズで出会う子どもたちも、それぞれの悩みや苦しさのなかをサバイブしています。子どもがたったひとりでその渦中を走り抜けることは難しく、だからこそ傍らでいっしょに考え、ともに歩む人が必要なのだと思います。どの子どもにも、この絵本に登場する「おばけ」が求められるのだと思います。子どもがチャレンジをしている時は、おとなもそれを見守る、支えるというチャレンジをしています。新しい中学生活、娘の頑張りに、親という立場でともに歩む人である私も奮闘中です。『よるにおばけと』を読むなかで、不安がいっぱいあるプロセスのなかにも、美しい風景が立ち現れる瞬間はあり、その風景をともに見ることそのものにも価値があり、「それでいいんだ」と励まされた気持ちにもなりました。

 オンブズは、公的に設置された第三者機関の立場から、子どもとともに歩む人たちです。子どもの育ちの基本的責任は保護者にあることを子どもの権利条約も示していますが、保護者だけでは子どもを支えきれないことはたくさんあります。私自身は、オンブズがないまちで子育てをしているからこそ、オンブズが設置されていることに様々な可能性を感じます。子どもを中心に置きながら子育てを社会にひらき、社会の課題として捉えていく点、それを社会の側にも働きかけることができる点は大きいと考えています。今年も、学びながら、少しでも子どもたちとともに歩むことができるよう頑張りたいと思います。

 執筆:オンブズパーソン 長瀬 正子(ながせ まさこ)

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